ーうつ病についてー


 最近うつ病やうつ傾向の患者さんが増えています。「うつの時代」という言葉もあるぐらいですから、これも今という時代の病なのかもしれません。もっともうつ自体は昔からある病気で、特に春先になると感情的に不安定になるという症状は、3000年前に書かれた東洋医学の古典「素問」にも出てきます。うつ病になる人は、まじめな人が多いと言われます。ある人は仕事で、ある人は学業でまたある人は人間関係で、何とか目の前にたちはだかる壁を破って目標に達し、夢を遂げようとがんばって,がんばった末に限界を感じる、そして精神的に大きな挫折を感じて、うつの状態に入っていくことが多いようです。
 
 漢方では、「思いが過ぎれば脾を傷る(やぶる)」あるいは「慮(おもんばか)れば脾を傷る(やぶる)」という言葉があります。
つまり「ああではないか、こうではないか。」「こうなったらどうしよう、そうなったらどうしよう。」というどちらかというと、建設的ではない思案が続きすぎると消化吸収の力が衰えていくという意味です。まず食欲がなくなります。疲れやすくなって段々呼吸も浅くなり、声にも力が入らなくなってきますね。体全体に元気が回らなくなってきている状態です。さらに「胃が安らかでないものは、睡眠が安らかではない。」という言葉もあります。胃腸の働きが衰えると熟睡できなくなるという意味です。
こうして精神的にはうつで感情の盛り上がりがない、そして食欲はない、夜は眠れない、体はいつも疲れているこうしてうつ病の基本的な状態ができあがるわけです。精神的な行き詰まりが体の不調を呼び、体の不調がさらに精神にダメージを与えていく、という悪循環。
 
 そしてうつ病の場合、病院へ行くと大抵は抗うつ剤が出されて服用するように指示が出ます。脳から出るドーパミンと言う物質を補うための薬で、中にはこの薬が劇的に効いて、快復してゆく方もいるのですが、それ以外の方にはどうもそれほど効かないようです。効かない人にも抗うつ剤が処方され続ける場合も多く、続いて安定剤が出されます。こうした強い作用のお薬を飲み続ける結果、胃は荒れてゆき、肝臓は疲れ、睡眠がますます「安らか」でない、つまり熟睡できなくなっていく。さらには睡眠薬が出され、胃薬も一緒に、と言う状態になってから鍼灸の治療に来られる方が多いのです。
 
 こういう場合鍼灸ではまず脾を中心に、弱った内蔵の力を高めていきます。気が体をめぐれば食欲がわき、食べたものが身に付き、さらに睡眠が深くなれば体が精気を取り戻し、考え方も前向きになっていくものです。
 さらに体の中には気功で言う「気道」が通っているんですが、うつ病の方はここが詰まるというか、はなはだ滞ってきます。つまり気づまりになってくるわけです。つまりを通して気道を開けると、うつの重さがとれていくものなのです。そのためには、丹田(へそ下三寸のつぼ)から思い切った声を出すのが一番です。当院ではそのための気功法も指導しており大変喜ばれています。
 気道を開けて、うつの重さが無くなることを実感すると、希望が出てきます。つまり「自分の病気は治りうるのだ。」ということですね。
このことを強く実感できた人ほどその後の快復がよいようです。

 そもそもうつの状態と言うものも体の自然の防御反応の一つなのだ、と言う考え方があります。つまり、膝の痛みを我慢してプレーしていたスポーツ選手が、一休みした後にどうにも膝が重く固くなって動かなくなってしまうという事があります。それは膝の靱帯が度重なる負担に耐えきれず、ある限度を超えると力を入れさせないようにロックがかかるような状態になるわけです。当然もう走り回ることもできませんから、おとなしくしていると消炎作用が働いて膝の炎症が治ってゆく。
 それと同じ仕組みが精神にもあり、興奮、悲嘆、挫折で振り回された感情が負担に耐えきれず、ある限度を超えた時点で自ら感じることをやめるということです。いきいきとした感情の弾力をなくし、精神への新たなそれ以上の負担をさけることで、傷ついた精神の恢復が行われると言うことで、私にはなるほどと思われます。だとすればうつにとって大切な治療は薬剤でいたずらに内臓を痛めることではなく、そうした自然の恢復力を力づけ、より早い回復を目指す質の良いケアーということになります。 まさにそれこそが気功と鍼灸の治療なのです。









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